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星加雅伸税理士事務所のブログ width=

目指す事務所像

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「人と人をつなぐアットホームな事務所」を職員とともに目指したい

星加雅伸

「人と人をつなぐアットホームな事務所づくり」をモットーとする星加雅伸会員は、関与先とのコミュニケーションを重視し、「巡回監査はお客さまのための時間」と言い切る。「小規模企業の自計化が課題だった」と語る星加会員は、より密度の濃い巡回監査を行い、業務品質の向上につなげるために「e21まいスター」の推進を決めたという。

関与先からの感謝の言葉で職業会計人の道を歩むことを決意した

──まず、税理士を志したきっかけを教えてください。

星加学生時代、公的な資格を取れたらいいなと漠然とは思っていたのですが、特に何を目指すかという将来像はなかったんです。簿記・会計は理屈が分からなくて一番嫌いでしたし、税理士という資格があるのも知らなかったくらいで(笑)。
それで就職活動時、適正検査を受けたら「土木」という結果がでたので、そのまま素直に建設会社に就職しました(笑)。スケールの大きい、社会貢献もできる仕事だから魅力はあったのですが、「大きな組織は自分には向かないな」と思って3ヶ月で辞めてしまったんです。
退職後、新聞の求人広告でたまたま見つけた会計事務所に勤めることになり、それがTKC会員事務所でした。ここでTKCと出会えたことは本当に幸運だったと思います。巡回監査が税理士の仕事なんだと自然に思え、かつ世の中の役に立つ仕事だと分かりましたから。巡回監査で、困っている関与先にアドバイスして「業績が上がったよ」「融資がおりたよ」と感謝の言葉をいただくうちに、「一生の仕事にしていこう」と思い、税理士を目指すことを決意しました。
それから、やっぱり飯塚毅先生の存在は大きかったですね。会計事務所に勤め始めたのは昭和57年のことですが、当時飯塚先生は名古屋によく講演にいらしていて、生の講演を聴けたのは本当にありがたかったと思います。なにしろ強烈なインパクトがありましたから。税理士試験の勉強をせずに飯塚先生の本ばかりを読むという時期もありました(笑)。
そして17年間職員として勤め、資格取得後の平成11年に独立。当時の巡回監査担当先のうち約15件を「のれん分け」してもらい、自宅の一室を改装して家内と2人で開業しました。

──独立時のご苦労は?

星加
関与先拡大ですね。関与先を引き継いだことで、給与分くらいはなんとか確保できて普通に生活できてしまったので、甘えてしまった部分がありました。1年目は1件も増えなかったんです。独立2年目に入った頃、家内に生活費を渡したら「給料は?」と言われ愕然としました。生活費は増えていくのに関与先がなかなか増えない。この頃が一番辛かった。今でも忘れられないですね。

そこで、セミナーや会合などとにかく人が集まる場所に顔を出し、「紹介してください」とお願いしていきました。行ったらネットワークビジネスの勧誘だったこともありました(笑)。でもその甲斐あって、開業3年目から少しずつ関与先が増えていきました。
ところがちょうどその頃、前勤務先の所長先生が体調を崩されて「事務所を承継してもらえないか」とお声かけいただいたのです。正直迷いましたが、非常にお世話になりましたので承継を決意。平成14年、関与先約50件と職員3人を承継し、現在の場所に移転しました。3人の職員のうち1人はご主人の転勤で退職しましたが、あとの2人は今でも働いてくれています。現在は女性税理士2名を含む、職員7名体制の事務所です。

職員が働きやすい事務所づくりを重視毎日2回の「お茶の時間」でリフレッシュ

──ここ10年間で退職者なしとうかがいました。定着率の高さの背景は?

星加
「スタッフ皆が働きやすい事務所づくり」を心がけているからでしょうか。多くの場合、所長の意思とスタッフの働きやすさは反比例するところがあって、所長が「こうしたい」と思うことはスタッフにとっては負担になることがあります。「職員にとって良い事務所とは何か」を一番に考えるべきだと思っているので、例えば土日祝日休み、残業が少ない、有給休暇も自由に取れる──など職員時代に私が「いいな」と思った勤務体系はすべて実行しています。
また、勤務時間は繁忙期を除き原則9時頃~17時まで。9時「頃」というのは、家庭のある人が多いからです。そして毎日、10時半と15時は「お茶の時間」にして、皆でお菓子を持ち寄って雑談する時間にしています。一応10分間と決めていますが、30分になっても1時間になってもいい。仕事以外の話をする機会が大事かなと思い、独立以来ずっと続けている習慣ですね。この時間に担当SCGや提携企業担当者の方にも来てもらって、気軽にコミュニケーションをとれるようにしています。
それから、月初めに1回、半日かけて全体ミーティングをし、そこでどうすれば働きやすい環境がつくれるか、滞っている仕事はないか、なぜ滞ったのか、どうすれば解決できるか、などの業務フローや改善すべき点について皆で議論しています。新しい人を採用する時も、一次面接はスタッフが行い、自分たちと一緒に働きやすい人かどうかを見極めてもらいます。定着率が高いのは、そのおかげかもしれませんね。

──事務所の経営方針の通り、まさに「人と人をつなぐアットホームな事務所」ですね。

星加
でも、皆やるときはきちんとやってくれています。業務マニュアルはありませんが、一人ひとりが思考して行動してくれているので本当にありがたい。
とりわけ補助税理士の淺野と中根には、半ば強制的に税理士会の会務やTKCの支部例会、委員会、研修に参加させ、会務と事務所業務の両立というハードルを課しています。税理士は指導者として、そして経営者として自ら決断を下すことが求められますから、能力を高めてもらうためです。

巡回監査で社長の話をじっくり聞くため「e21まいスター」を導入した

──現在の関与先件数は?

星加
月次の関与先件数は法人85件、個人30件。所長は自分だけ安全なところにいないで現場に行くべきと考えているタイプなので、私は今でも40件ほど担当を持っています。1日3~4件回る時もありますから、事務所にはほとんどいません(笑)。事務所の中は補助税理士2人と職員に任せています。

──そこまで「現場」にこだわるのはなぜですか。

星加巡回監査はお客さまのための時間だからです。税理士が「相談相手」としてじっくりコミュニケーションをとって、業績はもちろん人材育成や融資など社長が抱えている悩みを話してもらい、一緒に解決策を考えるための時間。この限られた時間を、「ここの1万円どこいきましたか」という話で終えてしまうのはつまらないし、もったいない。決められたチェック事項はきちんと済ませますが、事務的に終わってしまうのは嫌なんです。
だから巡回監査でもっとコミュニケーションの時間を確保するために、どうしても自計化が必要なんですよね。実は関与先の8割強は売上2000~3000万円くらいの規模で、財務エントリや手書きの出納帳を使用しているところがほとんどなんです。データ入力は会計事務所ですから、小規模企業の自計化は事務所の課題でした。しかも手書きでの記帳を嫌がった関与先が、市販のソフトで自計化するというケースも出てきてしまっていたのです。
ですから「e21まいスター」の提供は本当にありがたかったです。関与先が抱えていた課題と事務所が抱えていた課題の両方が解決できる。コストもFXシリーズより低めですし、4月提供も良いタイミングでした。

──e21まいスター導入企業の反応はいかがでしょうか。

星加導入企業数としては今は15件ほどですが、今後もっと増える予定です。業種は不動産、自動車販売・修理、英会話スクール、飲食、建設……。バラエティに富んでいますね。アイコン表示で分かりやすいし、入力しやすいということで、皆満足していただけています。
市販のソフトで自計化していた、あるサービス業のお客さま(売上約3000万円)は3月決算だったので、「良い機会だから」と提案したらスムーズに導入が決定。4月から運用しています。使い勝手が良いと好評ですし、社長の奧さんと一緒に1ヶ月の数字の動きを見てもらって、利益が出ているかどうか、現場で見てもらえるのもポイントですよね。おかげで「ゆくゆくは経営計画も作りたい」と言ってくださっています。このように、社長が経営に興味を持ってもらえるようになれば、継続MAS導入にもつながりやすい。記帳代行では作業で終わってしまいますが、自計化すると次の段階に進める。これは大きなメリットだと思います。
また新規関与先で、小規模のお客さまであれば最初から提案しています。そして2週間分くらいは、立ち上げとして取引先情報を含めて事務所で入力します。きちんと作動するかどうか、設定が合っているかどうかを確認する意味と、関与先の把握にも役立つからです。
いまはパソコンに親しんでいる人も多いですから、中にはお客さま自ら工夫して独自の使い方をする企業も出てきました。例えば「しっかり会計」の仕訳辞書には「取引先名」「元帳摘要」がありますが、「取引先名」に、関与先が管理しやすい「元帳摘要」の項目をあえて登録して検索しやすいようにアレンジしていて、面白いなと思いました。これはマニュアルにもどこにも書いていなくて、私も説明していないことです。自発的にシステムを使いこなしている姿を見るのは嬉しいですね。
こうした姿を見ると、TKCシステムは関与先の思考が進むシステムでもあるのかな、と思うことがあります。簡単すぎると自分好みにカスタマイズできないですよね。それを、あえて考えさせる余地を残しているような気がするのです。やっぱり、システムは使う人の工夫次第だとつくづく感じます。

24時間365日よどみなく継続的に関与先の課題を解決したい

──先生が描く事務所の理想像や夢についてお聞かせください。

星加
自分がどんな事務所にしたいか、ということよりも、「職員が皆、働きやすい環境」を追求していきたいと思いますね。
理想としては、税理士が巡回監査に行く事務所であり続けることではありますが、私もいつかは引退しますし、職員も皆年を重ねていきます。ですから、皆が気持ちよく定年まで勤められる体制を今から考えておかなければいけないなと思っています。全員60歳になってから手を打つのでは遅いですから。あと2人くらいは、若手の税理士を採用したい。ゆくゆくは法人化も考えていますが、規模としては自分の守備範囲は10人くらいの事務所がベストかなと感じています。

──関与先件数や職員数など、「数へのこだわり」はあまりないようですね。

星加
それは「枝葉」の話ですね。数ばかり追いかけているとどこかに無理がかかるもの。「根っこ」の部分としては、まずは職員の皆が働きやすい環境を整えること、それに尽きます。結局、会計事務所の仕事は単発で力を出せばいいというものではなくて、継続性が大事ですよね。24時間365日、絶え間なくよどみなく、コンスタントに関与先の課題を解決していくことが求められます。
でも、大事な職員が疲弊したり、所長の私も討ち死にしたりすることがあってはいけない。ですから皆が無理なく、「八分目」の力でも120%の関与先支援ができるような、皆が協力し合える事務所環境を整えていきたいと思っています。